現代の辻占?−「車占い」について− その1

 昭和52年5月30日付の『毎日新聞(夕刊)』で「子ども調査研究所」(東京・渋谷、高山英男代表)の齋藤次郎氏が「車占い」について紹介している。
この「車占い」は果たして辻占と関係があるのか考察してみた。

1.記事概要

1.1.発生場所
 埼玉県入間市横浜市旭区

1.2.入間市での発生の経緯
 昭和51年秋、道路で「ワーゲン」の目撃数を競う遊びが発生。
 昭和52年春、「ワーゲンを5台見たら良いことが起こる」という占いができ、その後街中でそれ以上のワーゲンを目撃した際の救済策として「スバル360を見たらマイナス1台」というルールができる。

1.3.ドライブ中のルールの発生 
 八王子市山田小の生徒が考案。「ドライブ中対向車線上などにベージュ色のワーゲンを4台か9台見たらアンラッキー、交通事故に気を付けろ。赤いワーゲンは縁起が悪いが、ジープを見ればゲン直しになる。ダイダイ色のワーゲンは3台がラッキーナンバー、何か良いことが起こる」というもの。

1.4.中学生ルール
 横浜市旭区の市立万ヶ原中の生徒の間のルールは、あらかじめ車種別に点数を決めておき「目撃点数の合計が100点以上ならラッキーデー」というもの。ちなみに車種別の点数は、シビックとアコードが2点、スカイライン2000GTとギャランラムダが10点、フォルックスワーゲンが20点、フェアレティとコスモは30点というように人気が高い程点数も高くなっている。

1.5.占いの伝播
 この占いの元になった遊びは、昭和51年秋ごろ国道16号沿いの入間市横浜市旭区の小中学校でまず流行。そしてそこに住む児童・生徒によって、彼らが通っている都心の進学塾を舞台に他の地域の子供達に伝授され、東京周辺に広がった。 

2.車占いのルールとその背景
 各地のルールを書き出し、その背景を分析してみる。尚、数の解釈では上野富美夫編『数の話題事典』(東京堂出版、平成7年)、色の解釈では香川勇・長谷川望著『色彩とフォルム−児童画の深層へ』(黎明書房、昭和58年)を参考にした。

(1)ワーゲンを5台見たら良いことが起こる。スバル360を見たらマイナス1台
 「五体満足」という語もあるが、数字の「5」は”人間”や”完成された存在”の象徴と考えられている。そのためワーゲンを「5台」見ることが、「完成=ラッキー」という想像を生んだのだろう。スバル360は遠目でみるとワーゲンと似通っているので、ワーゲンの合計をぴったり5とするために「マイナス1」の役割を与えられた。

(2)ベージュ色のワーゲンを4台か9台見たらアンラッキー、交通事故に気を付けろ
 ベージュという色には象徴的な意味がないが、古来より数字の「4」は「死」に、「9」は「苦」に通じるという俗信があり、病院の部屋番号にもこの数字を避けることが多いと聞く。したがって、ワーゲンをこの数見たらアンラッキーということになったのだろう。

(3)赤いワーゲンは縁起が悪いが、ジープを見ればゲン直しになる
 赤には「血」という意味があるため、「血=事故」という連想からアンラッキーとなる。一方ジープは軍隊で使われることが多いので、「軍隊、軍人」をイメージさせる。
古来日本では武者に妖魔や災厄を祓う力があると考えられ、俵藤太のムカデ退治、源頼光・四天王の酒呑童子退治、源頼政のヌエ退治等々、武士が活躍する物語が多々あり、この「武士」のイメージが今風の「軍隊」のイメージに重なって、ジープを見れば不幸から逃れられるという発想に至ったのだろう。

(4)ダイダイ色のワーゲンは3台がラッキーナンバー、何か良いことが起こる
 橙色には特にはっきりした意味はない。数字の「3」は、「調和」、「安定」の意味があり、「三位一体」とか「日本三景」というように”セット”を呈示するとき、3が使われる。また、当時の野球少年のあこがれの的「ミスタージャイアンツ」こと長島茂雄選手の背番号が3だったことが、ラッキーナンバーとなった一因かもしれない。

(5)目撃点数の合計が100点以上ならラッキーデー
 昭和50年の流行語に「乱塾」という言葉があることからもわかるように、この頃から小学生の塾通いが増加し始め、「昼は学校、夜は塾」というライフスタイルが定着した。勉強ばかりやっている子は「点取り虫」と言われたが、彼らは遊びの中でも「100点」にこだわっていた。この占い遊びは、受験戦争下の子供の願望を素直に反映したものともいえる。