現代の辻占?−「車占い」について− その2

3.辻占との比較
 車占いを、現在瓢箪山稲荷神社で行われている辻占と比較してみる。

(1)占いを行う場所
 [車]道路沿い、交差点   [瓢箪山]辻(「うらば」と呼ばれる)
(2)占いを行う時間
 [車]原則日中   [瓢箪山]昔は夕方、現在は日中が多い
(3)占いの対象
 [車]車   [瓢箪山]通行人、車両など
(4)占いに必要な対象の数
 [車]1台、もしくは数台   [瓢箪山]1人
(5)占いのチェックポイント
 [車]車の車種、色、目撃数   [瓢箪山]通行人の言動、年齢、性別、職業、服装、携行物、移動方向、車両の種類
(6)占いの実行者
 [車]小中学生   [瓢箪山]大人が行うことが多い
(7)占いの解釈者
 [車]実行者本人   [瓢箪山瓢箪山稲荷神社宮司
(8)占いにかかる費用
 [車]無料   [瓢箪山]有料
(9)占い・御利益の伝播
 [車]学校、塾経由   [瓢箪山]口伝え、マスコミ経由
(10)占い可能な事象の範囲
 [車]ルールの範囲内に限定   [瓢箪山]あらゆる事象に対応
(11)占いを存立させる信仰・基盤
 [車]色、数字、車種の持つイメージ   [瓢箪山]言霊信仰、境界領域への意識

 占いの形式に着目すると、道路に面した場所にたたずみ、そこを通過するもので吉凶を判断するというスタイルは車占いも辻占も同じ。辻占ではまず通過する人物の「言葉」で占いを行い、他の要素によってそれを補完する。即ち無言で通過する時は、年齢、性別、職業、服装、携行物、移動方向、車両の種類などが判断の鍵となる。補完要素を考慮に入れた判断は深い知識と経験が要求されるため、瓢箪山稲荷神社宮司のような専門家でなければ解釈不可能。一方、車占いはあらかじめ吉凶判断の指針が決まっており、それに当てはまるか否かで吉凶が決まるため、小学生でも行える。辻占も発生当時は現在のように複雑なものではなく、万葉の古歌にあるように通行人の言をそのまま吉凶に結びつけていた。しかし時代を経るにつれて内容が複雑化し、今日の姿になったのだ。
 占いを存立させる信仰・基盤に着目すると、辻占では「言った言葉に魂が宿り現実化する」という「言霊信仰」や「道路や橋は、現世と異界の境界である」という「境界領域への意識」が解釈の背景にある。一方、車占いでは「色、数字、車種の持つイメージ」がルールの決定に重要な役割を果たす。これは、辻占の背景にあるものとは直接結びつかない。ただし、そのイメージの中には「4、9は、死、苦に通じる」とか「武力で災厄を祓う」といった禁忌や信仰が含まれており、現代の占いであっても過去の影響を受けていることがわかる。
 以上のことから、「車占いは辻占と同様のスタイルを持つ占いだが、その存立基盤は辻占とは全く異なり、『現代の辻占』とは言えない」という結論が導き出せると思う。