『和訓栞』に見る「夕占」と『正ト考』に見る「辻占」

  • 『和訓栞』に見る「夕占」と『正ト考』に見る「辻占」

文政12年[1829]の辞書『和訓栞』前編巻三十五には次のような「夕占」の説明がある。

ゆふけ 万葉集に「夕占」、「夜占」、「夕衢」などを詠んだ歌がある。俗に言う「辻占」の事。「夕食」の意味もある。後拾遺集に「ゆふけをとはせける」と見え、「ゆふけの神」という表現も見える。又、これは「黄楊小櫛」という名で十字街に出て黄楊の櫛を取って道祖神を念じて見え来る人の語を以て吉凶を占う法という。黄楊を「告げ」の意味に掛けているのだろう。(後略)

古代から中世にかけて盛んに用いられた「夕占」という語は、すっかり忘れ去られて、この頃になると「古語」扱いされている。
天保15年[1844]、伴信友は占法研究書『正ト考』の中で「辻占」について次のように論じている。

或る雑書に「辻占と言うのは、四辻に出て、手に黄楊の櫛を持ち、心に道祖神を念じて、歌を唱える。その歌は『辻や辻四辻か内の一の辻 占まさしかれ辻占の神』で、これを三度繰り返し、やって来た人の語を以て、吉凶を決める」とある。また或る書には「辻占を問う方法。占おうとする事がある時、四辻に出て、『百辻や四辻かうちの一の辻 占まさしかれ辻占の神』という歌を三べん唱えて待つ。そして道行く人の三人目に当たる人の言を聞いて、願い事と思い合わせて占う。但し三人目の人が無言の時は、その次に物を言う人の言を取る」とある。これらは、『拾芥抄』の「三辻云々」といっている占いよりむしろ古風に聞こえる。

初めの「或る雑書」の占法は呪文が若干崩れているものの、『艶道通鑑』―『本津草』系に属するものである。この他に「百辻や四辻かうちの…」という呪文を使う占法があったことが、ここからわかる。