辻占占法の歴史

戦前の瓢箪山稲荷神社の絵葉書

甲南女子大学の菊池眞一先生から戦前の瓢箪山稲荷神社の絵葉書をいただいたので、参考までにUP。(画像参照) 写真の大鳥居は明治39年5月に建てられたもので、2006年5月19日の「辻占雑記帳」で紹介した『辻占本家河内瓢箪山』*1に登場する「赤の鳥居」とは…

占いとしての「辻占」のまとめ

占いとしての「辻占」のまとめ これまで占いとしての「辻占」の歴史を概観してきたが、そのポイントは、次の6点。 古代人は、夕方から宵にかけて異界の入口である辻に立ち、神霊の言葉を聞くことによって未来が予知できると信じていた。これを「夕占(ゆう…

衰微する辻占

衰微する辻占 辻占の繁栄は瓢箪山だけの現象で、他の地域では衰微の一途をたどった。これには易占の流行や後日述べる辻占菓子の普及も一枚噛んでいる。 瓢箪山以外の辻占の記録としては、明治36年の『文芸界第十七号』で芸者のまじないの一つとして丑三つ…

瓢箪山稲荷神社の辻占(その3)

瓢箪山稲荷神社の辻占(その3) 明治34年1月28日付『大阪朝日新聞』には、『瓢箪山の辻うら』と題する参拝体験記が載っているが、ここに見える辻占の手順は次の通り。 神社に参拝し、願意を神に伝える。 拝殿前に置いてある籤(一〜三の番号がついた棒…

瓢箪山稲荷神社の辻占(その2)

瓢箪山稲荷神社の辻占(その2) 『文芸倶楽部第十一巻第十三号』(明治38年)に、番衆浪人というペンネームの者が『辻占本家河内瓢箪山』という題で、明治20年代後半の辻占体験記を寄せている。長文だが当時の様子が生き生きと描かれているので紹介した…

瓢箪山稲荷神社の辻占(その1)

瓢箪山稲荷神社の辻占(その1) 明治維新を経て文明開化の世が到来し、旧来の占いが迷信として排斥される中、辻占は大阪の瓢箪山稲荷神社で繁栄を謳歌した。社伝によれば、ここには山畑古墳群中最大最古の6世紀古墳時代後期の双円墳があって、昔から「瓢箪…

辻占の行われた場所

辻占の行われた場所 辻占が行われていた場所について、江戸時代に書かれた記録が二点ある。 享保19年[1734]刊の菊岡沾凉の随筆『本朝世事談綺』(別名『近代世事談』)五巻雑事 「辻占」の項に、大阪・堺の「占の辻」の話がある。 辻占は泉州堺より始ま…

『和訓栞』に見る「夕占」と『正ト考』に見る「辻占」

『和訓栞』に見る「夕占」と『正ト考』に見る「辻占」 文政12年[1829]の辞書『和訓栞』前編巻三十五には次のような「夕占」の説明がある。 ゆふけ 万葉集に「夕占」、「夜占」、「夕衢」などを詠んだ歌がある。俗に言う「辻占」の事。「夕食」の意味もあ…

辻占と辻易者

辻占と辻易者 寛政元年[1789]、新井白蛾は随筆『闇の曙』で当時の俗信を厳しく批判しているが、辻占については次のように述べている。 辻占といふは、むかし婦人子供輩の翫びし事也。拾芥抄などに見へたり。今神社仏寺などの門前、或は川辺などに出てうら…

『艶道通鑑』と『本津草』に見る辻占

『艶道通鑑』と『本津草』に見る辻占 正徳5年[1715]、神道家増穂残口によって書かれた『艶道通鑑』神祇之巻十二にこうある。 黄楊の櫛を持って道祖神を念じて、四辻に出て自分が思っている事が叶うか否かを占う。 「辻や辻四辻がうらの市四辻 うら正かれ…

松永久秀と辻占

松永久秀と辻占 戦国時代三好家の重臣として活躍した松永弾正久秀が建てた橋の辻で辻占が行なわれるようになったという伝承が、東大阪市に残っている。 久秀が仕官を求める旅の途上で困窮から元旦の餅も手に入れられず悩んでいたところ、川のほとりの新仏に…

「辻占」登場

「辻占」登場 室町時代に入っても夕占の歌は相変わらず詠まれている。1.『長慶天皇千首』(天授2年[1376])寄櫛恋 長慶天皇*1御製 「ゆふけとふつげのをぐしもひくかたにおもひなされてまつぞはかなき(夕占に使う黄楊の櫛をひく方に気が取られて〔貴方…

夕占と女性

夕占と女性 鎌倉時代末に成立した百科事典的雑録『拾芥抄』上本 諸頌の項にも、夕占の記述がある。 「フナトサヘユフケノ神ニ物トヘバ道行人ヨウラマサニセヨ」 児女子が言うには、黄楊の櫛を持ち、女三人三辻に向かい夕占をする。又午歳の女は午の日にこれ…

複雑化する夕占

複雑化する夕占 鎌倉時代に入ると、夕占は複雑な呪術として化していった。平安末期の算博士三善為康の撰と伝えるが実は鎌倉末期に編纂された辞典『二中暦』の九巻呪術の項に、夕占の記述がある。 「ふなとさへ ゆふけのかみに ものとはば みちゆくひとよ う…

平安時代後期の夕占

平安時代後期の夕占 平安時代後期になると夕占の占法に変化が起こり始め、占いの際に黄楊の櫛を使うようになる。 『久安百首』(久安6年[1150])の崇徳院*1の御製 「さしぐしもつげのはなくてわぎもこがゆふけのうらをとひぞわづらふ(挿し櫛はあるが黄楊…

『大鏡』に見る夕占、道占、辻占、夕占

『大鏡』*1に見る夕占 『大鏡』五巻に、藤原兼家の妻・時姫が若かった頃、二條の大路に出て夕占をした逸話が出てくる。それによると、道を一人で歩いてきた白髪の老女が彼女の前で立ち止まり、「なにをしておいでですか。もし、夕占をなさっているのですか。…

辻は「異界」の入口、「夕占」、万葉期の夕占

辻は「異界」の入口 「辻」という文字は和製漢字で、道の交差している様を示している。古来から辻は現世と異界の境界と信じられており、そこには神霊や悪霊、妖怪や幽霊が出没した。境界となるのは辻だけではない。橋や門などもそうであった。宇治橋に祭られ…