『心中宵庚申』と辻占

  • 『心中宵庚申』と辻占

近松門左衛門の代表作の一つ『心中宵庚申』*1道行の場にも辻占が登場する。

今の小うたの一ふしにふたりとふたりが名とり川、
ヲヽそれそれじやとうたひしはおれとそなたが名とり川、
つじうらがよいこなたへといさむはおとこのやたけ心、
アヽうれしいと引つれて、
ともにいそぐはおんな気のなさけするどに人たへて、
ものしんしんたる、
てら町をしにゝゆく身もしばらくは、

参詣帰りの一団が歌っているぞめき歌を物陰から聞いて、冥界へと旅立つ二人が吉凶を占っているが、ここでも正式な占法は使われていない。
西鶴の『一代男』では辻占の占法が崩れながらも提示されているが、近松作品の3作品ではそれが希薄になっている。近松は、四辻、橋詰、駕籠の入り口(空間の境目)、死出の旅路といった「異界へと通じる場」で行われる言葉占いを「辻占」と表現したが、それは後世の作品にも影響を与えることになった。

*1:享保7年[1722]