辻から離れていく辻占

『天衣紛上野初花』と辻占

『天衣紛上野初花』と辻占 河竹黙阿弥の『天衣紛上野初花』(明治14年)に登場する辻占も、「言葉占い」といえよう。 とら「もし勘八さん、爰(ここ)は吹きさらしで寒いから、あつちへはひつてあたつておいでな」 勘八「いや大福を喰つて居る所へ、あたつ…

『春告鳥』と辻占

『春告鳥』と辻占 ここまで辻占の登場する場面を見てきたが、いずれの作品でも辻占は境界領域並びに路上で行われていた。ところが、天保期になると屋内で辻占が行われる場面が登場する。 為永春水の『春告鳥』二編(天保8年[1837])には、以下のような下…

『南総里見八犬伝』と辻占

『南総里見八犬伝』と辻占 『芦屋道満大内鑑』同様、「路上」で辻占が行われる場面が、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』第五輯*1巻之一第四十二回に見られる。 是見給へ、今来し途の田の畔にて、この鋏を拾ふたり。鋏は進みて物を剪れども、退くときはその功な…

『芦屋道満大内鑑』と辻占

『芦屋道満大内鑑』と辻占 辻占の変容は、近松の死後も続く。近松の活躍した竹本座の座主であった竹田出雲は、享保19年[1734]に『芦屋道満大内鑑』を書くが、この二段目に辻占が登場する。 かの桜木のあだ花をちらしてのけんと入相の鐘を相図に石川悪右…

『心中宵庚申』と辻占

『心中宵庚申』と辻占 近松門左衛門の代表作の一つ『心中宵庚申』*1道行の場にも辻占が登場する。 今の小うたの一ふしにふたりとふたりが名とり川、 ヲヽそれそれじやとうたひしはおれとそなたが名とり川、 つじうらがよいこなたへといさむはおとこのやたけ…

『博多小女郎波枕』と辻占

『博多小女郎波枕』と辻占 近松門左衛門が享保3年[1718]に書いた『博多小女郎波枕』には、以下の下りがある。 まさしかれと心中にたのみをかけし辻占の、 かごかきが詞のはづれ惣七が胸にこたへ、 かゝらぬなはに気をしばられむかふの人はおるれ共、 我心…

『堀川波鼓』と辻占

『堀川波鼓』と辻占 西鶴と並んで上方文学を代表する近松門左衛門の作品にも、辻占が登場する。宝永4年[1707]の『堀川波鼓』下巻には次のような台詞がある。 こぶしをかため四つ辻に四人さまよひ立ゐたり、 常さへにぎはふ上京のおりしもけふの祭客、 下…

『好色一代男』と辻占

『好色一代男』と辻占 近世小説に辻占が初めて登場したのは、天和2年[1682]の井原西鶴『好色一代男』で、巻四「形見の水櫛」に辻占の描写がある。 邊(あたり)を見れば。黄楊の水櫛。落てけり。あぶら嗅きは。女の手馴し念記(かたみ)ぞ。是にて。辻占…

俳諧と辻占

俳諧と辻占 連歌から発し、室町時代末の「俳諧連歌」を経て、江戸時代になって確立した俳諧は、和歌とは異なり民衆詩の色彩が強かった。故に、当時使われていた「辻占」という呼称を句の中で用いている。1.『玉海集』(明暦2年[1656])栄春*1の発句・付句 …

辻占の変容、江戸時代の和歌と「夕占」

辻占の変容 昨日まで、占いとしての「辻占」の歴史を見てきた訳だが、その占いの呼称が、なぜ「偶然起こった物事を将来の吉凶判断のたよりとすること」や「紙片に種々の文句を記し、巻煎餅などに挟み、これを取ってその時の吉凶を占うもの」に使われるように…