今日の辻占

tsujiurado2008-07-11

沢村版『つじうらづくし』より「おまへにかぎるよ(お前に限るよ)」。添えられている絵は、仁王襷、七本車鬢の鬘などの姿から歌舞伎『矢の根』の曾我五郎時致と思われる。顔全体を赤く塗って隈取を描くのをごまかしているが、これは台詞の中にある、「我鯱鉾の飾り海老、赤いは親仁が譲りの面…」の下り*1を活かしているのだろう。『矢の根』は歌舞伎十八番の一つで市川團十郎家と縁が深い演目なので、この演者は当時活躍していた河原崎権十郎(後の九代目團十郎)なのかもしれない。権十郎は七代目團十郎の五男として生まれ、河原崎家の養子になったが、兄の八代目團十郎の自殺を受けて、ゆくゆくは團十郎名跡を継承すると見られていた。この文句には東京市民の権十郎に対するエールの気持ちが含まれているとは考えられないか。

*1:参照:服部幸雄編『歌舞伎オン・ステージ10』白水社、昭和60年、P.145