東京の辻占売(補)

  • 東京の辻占売(補)

辻占豆に引き続き、この時期の辻占入り花林糖について紹介しよう。
正岡子規が『ト筮十句集を評す』(明治三十一年)の中で、こんな評をしている。

長き夜に辻占を呼ぶ旅籠かな 春風庵
旅中長夜のつれづれ辻占売を呼びとめて二銭を投げうてばかりん糖十余り、がりがりとかぢりながら紙ぎれを開けば「待てば甘露の日和あり」と何やら望みありさうな辻占、さいさきよしと最一つ開けば「きつとだよ」とは何とも分らぬ辻占、さりとて何とはなくほゝ笑まれたるも面白し、旅好きの余取りあへず点を附けたるが何人も賛成者なかりき、尤も言葉に働きなければ人に捨てられたるか、それとも皆様旅はお嫌ひか(一部旧漢字を現漢字で表記)

短い文章ながら、花林糖を食べつつ、紙片の文句に喜んだり、小首を傾げたりする様子が生き生きと描かれている。