辻占菓子を引く作法

  • 辻占菓子を引く作法

現在、辻占菓子で運気を見る際には、菓子を1個使う場合と3個使う場合がある。先に見た『春の若草』(3月14日)では1個、『花鳥風月』(3月15日)では3個が使われているが、過去の記録やフィクションを見ると圧倒的に1個の方が多い。
また、菓子を引くに当たって、次のような事が行われたようだ。
(1)神仏に祈る
『花鳥風月』では、普段信心している浅草の観音に願を掛けてから、菓子を取り出した。
(2)切火を打つ
河竹黙阿弥の『女化稲荷月朧夜』(明治18年)では、清めるために切火を打ってから辻占菓子を開けている。
(3)「けんげんこうりこうり」と唱える
同じく『女化稲荷月朧夜』で、男が「けんげんこうりこうり」と唱えてから、開けている。
明治27年の尾崎紅葉の『紫』では、「南無乾元亨利、乾元亨利」と唱えてから、飴の袋に入った辻占紙片を見ている。
明治41年の『文芸倶楽部第十四巻第六号』に三遊亭園橘が『巽の辻占』を寄稿しているが、そこでは、主人公が、「南無ケンゲンコウリ…」と唱えて、塩煎餅の紙片を見ている。
「乾元亨利」は、易経の「乾、元亨利貞」が訛ったものであり、『大言海』(冨山房、昭和8年)の「けんげんかうりてい」の項には、次のように書いてある。

けんげんかうりてい(句)乾元亨利貞 [易経、乾卦、「乾、元亨利貞」トアリテ、占辞ナルヲ、孔子ガ、文言伝ニ、四徳ニ配シテ作ラレタリ、出典ヲ見ヨ]乾ノ四徳ト云フコト。即チ、元ハ、萬物ノ始メニテ、春ニ属ス、故ニ、仁トナス。亨ハ、萬物ノ長ニテ、夏ニ属ス、故ニ、礼トナス。利ハ、萬物ノ遂グルコトニテ、秋ニ属ス、故ニ、義トナス。貞ハ、萬物ノ成ルコトニテ、冬ニ属ス、故ニ、智トナス。(出典は略)

2006年5月15日の「辻占と辻易者」で、江戸時代後期以降、路傍の易占者が「つじうら」と呼ばれ、「辻占」という漢字が当てられたと述べたが、呪文についても辻占と易占の混同が起きていたようだ。