菓子製法書に見る辻占菓子

  • 菓子製法書に見る辻占菓子

これまで特許・実用新案になった辻占菓子を見てきたが、一方で、ノーマルな辻占菓子はどのようにして作られたのだろうか?当時の菓子製法書にいくつか記載があるのでここで紹介したい。(以下、一部内容を補完して記述)
1.『日本菓子寶鑑』(和洋菓子新聞社、大正5年)の「辻占煎餅」の作り方(P.412-413)

原料 小麦粉 400匁、白砂糖  200匁
まず鉢に白砂糖を投じ水を2合程入れて混ぜ、小麦粉を篩い漉し入れて揉み、尚、水を加えて薄く溶き伸ばし種汁(たね)を作る。これを十挺位の小型(小さい煎餅の型)を用いて、両端返しにて白色に焼き揚げ、辻占紙を中に入れて、折り曲げるべし。

2.『和洋菓子製造大鑑』(東洋製菓新報社、大正14年)の「辻占煎餅」の作り方(P.715-716)

原料 砂糖 250匁、メリケン粉 400匁、水 1升2合
右の原料をよく捏ね、小型で両面を焼き辻占紙を折り込んで巻く。

3.『和洋菓子の拵へ方』(湯川明文館、大正15年)の「辻うら最中」の作り方(P.191-192)

原料 最中の皮 40目、梨の汁(小梨1つ分)、最中餡200目位 道具 大根下し、新しい筆1本、竹ヘラ、布巾、茶碗
まず梨の皮をむきまして、大根下しにて摺り下ろし、茶碗に布巾を乗せ、摺り下ろした梨を布巾に移し、よくしぼり、その梨の汁を筆に付け、最中の皮の表の方に、「惚れるまで」とか、「あなたにかぎる」とか、「待てヽよ」、「成功いたします」、「思ふことが」何々、「待人来る」、「あの人なればどこ迄も」、「誠なり」でも、思いの文句を書き、又絵なども面白うございます。色々書いて、一寸乾かしてから、最中餡をヘラにて掬い入れ、2枚合わせればそれでできるのでございます。餡は前に拵え方がありますから、前を御覧下さい。この最中をおあがりになる時には、必ず焼いてから食べることといたさぬと、折角書いた文字が出ません。焼きますと書いた文字が現れます。お客様なれば是非一つお焼きになってから、おあがり下さいとお勧め下さい。お正月の歌留多会などには他のお菓子よりも手軽で美味しく、面白く何よりでございます。賑やかなお客様方の時には、一寸乙なものでございますからおためし下さい。

1.は折り曲げるタイプ、2.は巻煎餅タイプの辻占煎餅。『日本菓子製法全書』(菓子とパン新聞社、昭和26年[第4版])の「巻煎餅」の項(P.208)には、「辻占を巻き込んだ店もある」とあり、戦後も辻占入りの巻煎餅が作られていたことが推察される。
3.の辻占最中は炙り出しの原理を応用したものだが、当時は今とは違い、客間に火鉢があったから、手軽に最中を炙ることができたのだろう。もっとも、小生は生ぬるい最中を食べたいとは思わないが。