膝栗毛滑稽辻占 その30
歌川重政画『膝栗毛滑稽辻占』第29コマは浜松。宿屋に呼んだ按摩から幽霊が出ると聞いた2人、夜中に尿意を催して庭で小用をしようと雨戸を開けたところ、庭の隅に何やら白い影がある。弥次さんが恐怖のあまり気絶して騒ぎとなるが、実は洗濯で干したままになっていた襦袢がその正体という落ち。「たますとばけててるよ(騙すと化けて出るよ)」というお馴染みのモチーフの辻占文句*1が添えられている。
膝栗毛滑稽辻占 その29
歌川重政画『膝栗毛滑稽辻占』第28コマは見付。原作では通過するが、こちらでは宿で芝居風の見得を切りながら男と対峙している。「見付られたが百ねんめ(見付けられたが百年目)」とあるから、この男三島宿で弥次さんの路銀を盗んだ護摩の灰なのかもしれない。原作では泣き寝入りだったが、敵討ちをさせる展開はいかにも二次創作らしい。
膝栗毛滑稽辻占 その28
歌川重政画『膝栗毛滑稽辻占』第27コマは袋井。原作では掛川から袋井に向かう途中、昼なお暗い坂道で物乞いに声を掛けられて両人びっくりしたが、こちらの添え文には「こわさしのんでよるのみち(怖さ忍んで夜の道)」とあり、夜の旅という設定になっている。当時は街灯が無かったので旅人は夜通行するために折りたたみの提灯を携行していたが、蝋燭の明かりで照らせる範囲は広くないので、木の陰に潜む盗賊や山犬などに怯えながら歩いていた。そんな時に人に呼び掛けられたら、さすがに驚くだろう。
膝栗毛滑稽辻占 その26
歌川重政画『膝栗毛滑稽辻占』第25コマは掛川。宿場の茶屋で酒を飲んでいる座頭の2人組を見つけた喜多さん、塩井川で川に突き落とされた意趣返しにと2人が注文した酒をこっそり盗んで飲んでしまう。酒が無くなった座頭は茶屋の亭主に量を誤魔化されたと抗議するが、この一部始終を見ていた子供が喜多さんが真犯人だとバラしてしまう。添え文は「さけにもいろにも目がないよ(酒にも色にも目がないよ)」。一見すると座頭のことかと勘違いするが、本当はこの種のトラブルを起こし続けている喜多八を指している。
膝栗毛滑稽辻占 その25
歌川重政画『膝栗毛滑稽辻占』第24コマは金谷。宿場から駕籠に乗った喜多さんに物乞いの巡礼がつきまとい、やりとりの最中に突然駕籠の底が抜けた。駕籠かき2人は急場しのぎに自分の褌を外し落ちた底と駕籠の胴を括って喜多さんを乗せようとしたが、胴中を白い布で括った駕籠は武家の葬礼に使われるもの。一方弥次さんは護送用の唐丸駕籠に見立てて、喜多さんを罪人みたいと囃す始末。とうとう喜多さんは怒って、駕籠に乗るのをやめてしまう。添え文は「ほんとうにおつこちだよ(本当に落っこちだよ)」。弥次さんの情人(おっこち)であった喜多さんが本当に地面に落っこちたということだろう。それにしても喜多さん、風呂の底を抜いたり、天井を踏み抜いたり、駕籠から底ごと落ちたりと「抜ける」ことに縁があるのだろうか?